薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記
薬師寺から少し離れて
「昔むかしの笑いばなし「」から「罪ほろぼし」です
ある日のこと、村でいちばん貧しい男が、大そううなだれた様子で寺にやってきた。
「和尚さんよ、おら、あんまり暮らしが苦しくて、つい隣の畑から芋と大根盗んでしまっただ、この罪のつぐないは、いったいどうしたらよかんべぇ」
本のさし絵から
「ふむふむ、それならひとつ、わしが観音さまに拝んで許しを乞うてやるで、今しばらく待っておれ」
こうして和尚は観音様の前で、何やらムニャムニャ唱え始めたが、やがて男に言った。
「観音さまは今夜ぜひとも鯛が食べたいと言うておられるで、その鯛をお供えするのじゃ、そうすればおまえの罪は、きれいに許して下さるじゃろう」
「それはムリな話だ、芋や大根すら盗まねばならねえおらに、鯛が買える道理がねエ」
男がたまげて答えると、
「なあに、心配せんでよい。芋や大根と同じ方法で鯛も手に入れればよいのじゃ」