「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くのうのんから大和気象歳時記

薬師寺から少し離れて
すこし長いお話ですがお子さまにも読んで頂けたら幸いです。
今日も「奈良昔ばなし」から「中将姫」(ちゅうじょうひめ)
 むかし、奈良が都だったころ、天子さまの家来の藤原豊成という大臣に、長谷姫という娘がいました。長谷姫が三つのとき母親が死んだので、大臣はかわいそうにおもい、七つのとき、新しい奥方をむかえました。その名を照日の前といって、美しい方でしたが、素直で、やさしい姫が、だれからも好かれているのをみると、にくらしくおもって、かわいがろうとしませんでした。大臣が長いしごとで、姫をのこして、都の天子さまのもとはいってしまうと、照日の前を、「おかあさま」と呼んでは、そばへよっていかれました。また、どんないいつけでも、よくききましたので、「長谷姫さまは、心のますっぐな、おやさしい方だ。」という、うわさが、天子さまのところまでも、届いたほどでした。長谷姫が、十三のとき、天子さまが病気になられて、「ご殿の前を流れる水の音が、うるさくてねむれない。」とおしゃるので、長谷姫が、歌をよんでおなぐさめすることになりました。波はよし、竜田の川も、音なくて、天のすめらぎ なやみやめてよ それは、「竜田の川よ、たとえ波をたててもあんまり音をださないようにして、天子さまのなやみをとっておくれ。」というものでした。すると、不思議なことに、川の水音が、ぴたりとやんでしまったのです。
「さすがは、長谷姫じゃ」と天子さまは、大変喜ばれて、長谷姫に中将という位をくださいました。そのときから、長谷姫は、中将姫(ちゅうじょうひめ)とよばれるようになりました。ところが、照日の前は、おもしろくありません。「歌をよんだぐらいで、チヤホヤされて、何て、なまいきな長谷姫だろう。」とますます、にくくおもうようになりました。とうとう、ある日、こっそりひとりのけらいをよぶと、「雲雀山で、姫をころしておいで。」と、命じました。そのけらいは、姫をだましてつれだすと、山の中のさみしい雲雀山へと向かいました。姫は、むじゃきにけらいについていきましたので、こうかいしたけらいは、姫の前に手をついて、「姫さま、おゆるしください、奥方さまのいいつけで、ここで姫さまをころすつもりでした。でも、なんのつみもない姫さまをころすことことなどできません。」中将姫は、それをきくと、びっくりしましたが、やがて目をふせると、「わたしがいるだけで、おかあさまをそんなにおこらせてしまうのですか、わたしは、ここでひとりでくらすことにしますから、あなたは、帰ってわたしをころしたと報告してください。でないと、あなたがころされてしまいます。」けらいは、少しの間でも、こんな姫さまをころそうとおもったじぶんを、とてもはずかしくおもいまさいた。それで、い「え、わたしも、ここにのこらせてください。女房をつれてきて、ふたりで、姫さまのおせわをしとうございます。」といって、なみだをはらうとこぼしました。けらいは木をきって、家をたてたり、都から、中将姫の身のまわりのものなど、もってくると、さみしい生活をはじめました。中将姫は死んだ母親を思い、ヒマさえあると、家の中で、お経をあげてくらしました。
天子さまのもとでの長いしごとを終えて、大臣が都へもどってくると、姫のすがたが見えません。照日の前は、しおらしくすすみでると、「姫が、どんなにじぶんをこまらせたか、父親がいないのをさいわい、好き勝手なことばかりして、それをたしなめると、おこって家をでていってしまいました。」と、報告しましたので、大臣もおこって「そんなむすめは、もうわしのむすめではない。」といって、それきり姫のことは口にしませんでした。
 ある日、大臣は、けらいをつれて、雲雀山へかりにでかけました。えものを追って山の中をかけまわっていると、小さい家を見つけたので、「はて、こんなところに、だれがすんでいるのだろう。」と、近づいていくと、若いむすめが、いっしんに、お経をよんでいます。「あっおまえは・・・。」その声に姫がふりむくと、「まあ、おとうさま・・・。」

 本のさし絵から

ふたりは、しっかりとだきあいました。そこへ、けらいと女房が、薪をかついでもどってきて、これまでのことをくわしくはなしましたので、大臣は、なみだにくれながら、「姫、ながい間、苦労をかけたな、どうかゆるしてくれ。」とわびたのでした。長谷姫は大臣と一緒に館へ帰ってきまさいたが、照日の前には、二度とあいたくありません。そこで、大臣に、「おとうさま、わたしは、ほとけさまのでしになって、死んだおかあさまに、あいとうございます。」というと、頭をそってあまさんになりました。それから、三年の間、いっしんにお経をあげて祈りました。ある晩ふたりづれのあまさんがやってきて、「百とうの馬の背にのるだけのハスのくきをあつめておいで。」といいました。中将姫が、大臣にたのむと、さっそくハスのくきが届けられました。またふたりのあまさんがやってきて、そのハスのくきから糸をつむぎ、せっせとおりはじめました。やがて、夜があけて、中将姫が、お堂にはいると、そこには、あまさんのすがたではなく、ハスのおりものが、朝の光をうけて、キラキラかがやいています。おりものの中にハスの花がさきみだれ、天女たちがうつくしく舞っています。すると、天女のひとりが、中将姫を見て
にっこりわらったではありませんか。「あっ、おかあさま・・・。」中将姫は、それっきちことばをわすれたように、うっとりと、みとれていますと、そのときど0こからかおかあさまの声がきこえました。「これが、あなたの見たがっているほとけさまの国ですよ。天女の中にいるおかあさまも、見えたでしょう。」中将姫は、思わず手をあわせると、またいっしんにお経をとなえました。

本のさし絵から

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