「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

薬師寺から少し離れて
「奈良昔ばなし」から「おに女房」のお話です
 むかし、十津川の山の中に、たいへんけちな男がいたそうです。どのくらいけちかというと、男はながいことおよめさんも、もらわなかったからです。ところが、いろいろふじゅうなので、「どこかにごはんを食べないよめさんはいないかなお。」といってあるいていました。するとある晩、かわいらしいむすめがたずねてきて、「道にまよいましたので、今晩とめてくださいな。」というではありませんか。「とめてあげてもいいが、うちはごはんはださないことにしているけど、それでよかったらどうぞ。」「はい、わたしはごはんはいつも食べません。」それをきいた男は、よろこんでとめてやると、たのんでよめさんになってもらったそうです。そのむすめは「はいはい。」と、すなおにいうことはきくし、何日たってもごはんを食べるようすもないので、男は、「いいよめをもらった。」と、ますます精をだしてはたらきました。ところが、納屋にしまってある米が、どんどんへっているようなので、「おかしいなあ、きょうは山しごとを休んで、みとどけることにしよう。」と男は、天じょううらにかくれてのぞいていました。すると、むこどのを送りだしてあんしんしたよめは、納屋から米をかついでくると、大がまいっぱいごはんをたきはじめたではありませんか。ほっかりたきあげると、にぎりめしをたくさんこしらえて、両手にもってぱくぱく食べました。そしておおがまのごはんをぺろりとたいらげてしまうと、横になってねむってしまいました。

本のさし絵から

男はびっくりしてでてくると、「この村では正月か病気のときでないと、米のごはんは食べないし、それもほんのすこしあじわって食べるだけだ。それがおまえときたら、あきれたものだ。」出ていけといいますとよめはにっこりわらって、「みつかったら、しかたがない。わしは山へかえるが、てみやげに、おけをもらえないだろうか。」男がおけをわたすと、女は、おけの中へ男をほうりこんで、「このバカ。けちバカ。」とゲタゲタわらってはしりだしました。はしりながら女は、おそろしいおにのすがたになったから、男は、おけの中で、ただぶるぶるふるえていました。「どうかしてたすかりたいなあ」といっしんにいのっていると、大雨がふりだして、おけの中にどんどん水がたまりはじめました。そのときですタ二ワタリフジという、ふといふじづるが男の頭のうえにたれさがったので、男はそれにぶらさっがてにげだしました。おには雨水でおけがおもいのでにげだしたのに気がつきません。それで男は、こわいのもわすれて、あとをつけていきました。すると、大きな岩のほらあながあって、おにの子どもが十匹ばかり、あそんでいました。「今、かえったよ。おいしいおみやげをもってきたから、いい正月ができるぞ。」おには、ドンと、おけをおろして中をのぞくと、からっぽです。「ありゃ、さかながにげてしまったよ。あすの朝、みんなでつかまえにいこうなあ。」男は青くなってかえると、村の人をあつめて、「まあきいてくれ。」とわけをはなしました。みんなは、男のうちで、おにのくるのをまつことにしました。いろりにはかんかんに火をおこしてかくれていると、夜あけに、「道にまよいました。ちょっと中で休ませてくださいな」と若い女の声がします。「それきた。やれきた。」とだまっていると、「ふん、やっぱりあそこからはいるしかないか。」とおそろしい声がして、やねがミッシときしんで、やねのうらのけむりだのすきまから、ちいさいクモが一ぴき、するっとじざいかぎをつたっておりてきました。子おににちがいないと男は、パッと火のうえにはたきおとしました。

本からのさし絵

おにの子はジュンとやけ死にました。「うまくいったか。」うえからおにの声がするので、男はとぼけて、「みんな早くおりてこい。」それをきいた九ひきの子おにのクモと、一ぴきの大きいクモが、ぞろぞろすーっと、じざいかぎをつたうとおりてきたので、まちうけていた村のみんなが、「今だ。」と、つぎつぎ、パッパッと、火の上にはたきおとしてしまいました。男は、「これであんしんだ。」とつぶやいて、「わしは、ほんとうにおにのいうとうりに、けちばかだったなあ。」と村のみんなにいったそうです。それからは、けちな男も、ふつうにごはんを食べるよめをもらって、いっしょうけんめいはたらきました。そうそう、男をたすけたタニワタリフジを、この村ではだれもきらなくなりました。

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