「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

薬師寺から少し離れて
「奈良昔ばなし」から「瘤取り爺さん」
 むかし、ほっぺたにこぶをぶらさげたおじいさんが、となりどうしですんでいました。ふたりはこぶがじゃまになってしかながなかったので、「どうかしてこぶをとりたいものだ。」とはなしあっていました。あるとき、おじいさんのひとりが山へ芝刈りにいきました。夕方、芝を背おって山をおりましたが、とちゅうで道に迷ってしまったので、道ばたのあばら家を見つけてとまることにしました。その夜は、お月さんの光が、昼まのようにあかるくていい夜だったので、おじいさんは、歌でもうたいたくなってひとりでうたっていました。だれもいない山の中であるし、いい声をしていたので、だんだん気持ちが良くなって、知っている歌を、つぎからつぎえとうたううち、あたりが妖気につつまれて、何やら、あやしいふんいきになりました。おじいさんが見まわすと、たくさんの妖怪があつまっているではありませんか。妖怪たちは、おじいさんの歌に、うっとり、ききほれているようです。あんしんしたおじいさんは、ますますいい声でうたいました。

本のさし絵 から


夜があけると、妖怪たちは帰ろうとしましたが、中のひとりが、「じいさまは、たいそう歌がじょうずだが、その声は、どこからでるのかおしえてほしい。」といいますので、「そりゃ、このこぶの中からでますのじゃ。」とにこにこしてこたえました。それをきいた妖怪は、そのこぶがほしくてたまらないので、「こぶを宝ものと、とりかえてくれ」といって、たくさんの宝ものをおじいさんのまえにおきました。それで、ほっぺたについたこぶをもぎとると、よろこんで帰っていきました。

本のさし絵から


あとにのこったおじいさんは、じゃまなこぶはなくなるし、宝ものは手にはいるしで、ゆめのような気持ちで家へ帰りました。おばあさんにわけをはなしていると、となりのもうひとりのおじいさんがやってきて、「そんなうまい話はめったにないから、わしもいってくる。」といって、あばら家へいきました。さて、前のおじいさんとはちがって、歌がうたえなかったので、でたらめに声をだしてどなっていると、夜ふけに妖怪たちがあつまってきました。「しめしめ。」おじいさんは、いよいよ声をはりあげました。あつまった妖怪たちは、おじいさんがあんまりへたなので、耳をふさぐやら、地面にふせるやらして、「もう、やめてくれ。」とたのみました。おじいさんは、「こぶをくれっていうぞ。」と、わくわくしながらまっていますと、ひとりのが妖怪が、手にこぶを持って近づいてきました。「じいさまは、夕べのやつとはちがうようだが、その声はどこからでるのかな。」とききます。おじいさんが、「そりゃ、もう、このこぶですじゃ。」というと、妖怪はいきなり、手に持ていたこぶをおじさんのあいているほうのほっぺたに、ぺたりとくっつけました。「やい、このウソつきじじい。夕べもそういうから、宝ものととりかえてみたら、ただのこぶじゃないか、おまえのいうとうりなら、こいつをやるから、もっとうまくうたってみろ。」おじいさんは、ふたつにふえたこぶを見て、「トホホ、人のまねなど、するものではないなあ。」とつぶやきました。ようかいたちは、腹をかかえてわらうと、山奥にかえり、それからは、もうでてこなくなりました。

×

非ログインユーザーとして返信する