「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

薬師寺から少し離れて
「奈良昔ばなし」から「ばかされ太郎吉」です
太郎吉のすむ村に、一匹の古キツネがいて、若いむすめにばけては、「よめさにしてくれ。」といって、若い男たちを山の中にさそいこんでいました。ばかにされた男たちは、何日もたって帰ってくると、しばらくはゆめを見ているようにボンヤリしていたので、しごとにならないと、家のものたちは、あきれてしまいました。太郎吉の母親が、太郎吉が山へしごとにいくときは、いつも、「ムニャ、ムニャ」とおまじないをしたからです。
キツネは、はたらきもので、男ぶりのいい太郎吉を何とかばかにしてやろうと、いろいろしあんしていました。あるとき、太郎吉は、「おっかさん、きょうは、まじないはいらないよ、わしはみんなのように、キツネにばかされたりしないから。」といって、山へしごとにいきました。いっしょうけんめい働いた太郎吉が、日もとっぷりくれたので帰ろうとすると、雨がふりだしたので、木の下で雨やどりをしました。雨はなかなかやみません。腹のへった太郎吉は、昼のべんとうののこりを食べていました。すると、どこからともなく、いいにおいがしてきたので、太郎吉は、ふらふらと、雨の中をあるいていきました。むこうに、あかりが見えるので、近づいていくと、小さな家が、ありました。まるいあなをあけた窓から、あかりがもれていたので太郎吉は、首をいれて、中をのぞきました。そこはざしきになっていて、あたらしい青だたみと、白いしょうじがみえました。「はて、こんなところに、だれがすんでいるのだろう。」すると、しょうじがすっとあいて、キツネが1ぴきとびこんできました。キツネは太郎吉がみているとも知らず、鏡をもってきて、けしょうをはじめました。
 「さてキツネのやつ、若いむすめにばけるつもりだな。おもしろいことになっぞ。しっかり、見とどけて、村のみんなにおしえねば。」そうおもった太郎吉は、家へ帰るのもわすれて見ていました。キツネは、おしろいやべにをぬると、木の葉を一枚、頭にのせて、くるりと一まわりしました。ふしぎや、木の葉はりっぱな高島田のまげになりました。太郎吉が、まばたき一つする間のこ一回りいものだ。」と感心しました。こんどは、キツネは、青いこけをどっさりかかえてくると、からだじゅにくっつけました。それから、くるりと一まわりすると、何と、青いこけは、うつくしい着ものになりました。太郎吉は、「あっ」と声をあげました。ざしきにいるのは、どこから見ても、もんくのつけようのない、きれいな若いむすめでした。太郎吉が、うっとりみとれていると、いつのまにか、ざしきに、ひとりの若い男が、すわっています。「もし、兄さん、そいつは、キツネだから、だまされたちゃいけませんよ。」と声をかけましたが、男は、知らん顔をしています。太郎吉は、こんどはむすめにむかって、「やい、キツネ、おまえどんなに、じょうずにばけても、このわしだけは、だまされないぞ。おまえが、ばけるところをちゃんとこの目でみていたんだからな。」と、大声でいいました。ところが、むすめもきこえないのか知らん顔をしています。じれったくなった太郎吉が、ざしきにはいっていこうとすると、どうしたことか首がぬけません。窓に手をあてて、おしたり、ひいたりしましたが、どうすることもできません。そのうち、だんだんからだがしびれてきて動けなくなってしまいました。「これはおかしいぞ」太郎吉が、そのままのすがたで、ボンヤリ、ざしきの中のふたりを見ていると、うしろで、「ムニャ、ムニャ」と母親のおまじないの声がしました。とたんに、パッと何もかもきえうせてしむと、そこは、あかるい昼まの野原でした。そのまんなかで、太郎吉は、石どうろうのまるいあなに首をつっこんで、たっているではありませんか。

さし絵から

「太郎吉や、しっかりしておくれ、おまえが帰ってこないから、しんぱいして来てみたら、やっぱり、キツネにだまされていたんだなあ、今、村のものにてつだってもらって、おまえをたすけてやるぞ。」母親は、ボロボロ涙をこんぼしました。村の人たちが、やっと石どうろをこわして、太郎吉をたすけました。首が自由になった太郎吉は、はじめて、キツネにだまされていたことに気がつきました。「それにしても、キツネは、じょうずにばけていたなあ。」と太郎吉は、はずかしそうにわらいました。あんなきれいなむすめが、ほんとうにいたらどんなであろうと、おもうと、ゆめをみたような気持ちでした。こうして、村中の若い男がばかにされたので、村では、若い男の人形をした石どうろをつくって、まつることにしました。それからは、キツネも人をばかさなくなったということです。太郎吉は、あれいらい、ますます、働きものになったので、村の若いむすめたちが、「よめさんにしてくれ」とやってきました。
太郎吉は、じぶんと同じようによく働く、ふつうのむすめをよめにしたそうです。

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