薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記
薬師寺から少し離れて
「奈良昔ばなし」から〈笑う〉という字のおこり
むかし、弘法大師は、いろいろな文字をこしらえては、人々におしえては、人々におしえていました。ところが、〈わらう〉という字をこしらえようと、考えておりましたが、よい考えがうかびません。「なにかよいちえはないものか。」と思いめぐらせておりました。すると、きゅうに寺の外で、けたましく犬のほえ立てる声がします。弘法大師は、外に出てみると、貧しい身なりの旅のお坊さんが、犬にほえつかれていました。お坊さんは、犬がきらいか杖をふりあげています。さすがの犬も尻ごみをして逃げ出しました。犬もあわてて逃げ出したのか、そばにあった竹かごにつまづいたので、竹かごははね上がり、犬の頭にすっぽりと覆ってしまいました。目がみえなくなった犬は、そこらをぐるぐると走りまわります。通りかかった人々が、「これはおもしろい、犬がおどっている。」と、腹をかかえてわらいました。犬も何ごとかと、ますます竹かごの頭をふりまくって、あっちを向いて、「ワンワン」こっちを向いては、「ワンワン」とほえました。
本のさし絵
それを見ていた弘法大師もふきだしました。大師は、おもわずひざをたたいて、竹かんむりに犬とかきました。
「竹かごをかむった犬を見てわらうから、これでよい、これでよい。」
〈笑う〉という字は、そのときできたというが これはほんとうかな。