「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

梅雨から暑い日々がつづく中奈良の伝説をこれからは紹介いたします。うのん 所蔵しております 「子供のための 大和の伝説」 昭和45年初版発行された モノです。
思い 想像して大和の昔を感じてください。

「猿沢池の竜」

むかし、奈良に蔵人得業恵印(くらんどとくぎょうえいん)という坊さんがありました。鼻が人並みはずれて大きく、しかも先が赤かったので、世の中の人は大鼻の蔵人、それも長いとて鼻蔵とよんでいました。
鼻蔵さんはそれが、しゃくにさわって仕方がありません。
ある日、大きな立て札を持って来て、猿沢池のほとりに立てました。その立て札には
「五月五日、この池より、竜のぽらんずるなり」
と書いてありました。これで世間の人々をおどろかしてやろうという、鼻蔵さんのいたずらだったのです。ところが、この立て札のことが、都中のひょうばんになり、いよいよ、その五月五日になると、大和の国はいうまでもなく、近畿地方一帯から、たくさんの見物人が押しよせてきました。
鼻蔵さんは、はじめおかしくて、いい気味だと思っていましたが、しまいにおそろしくなってきました。しかし、
「まあいいわ、そのままにしておけ、ひょっとすると、これは仏のおぼしめしで、わしがあんなことをしたので、ほんとに竜があがるかもしれんぞ」
と思うようになりました。とにかく、自分も見に行こうと、坊主頭をふろしきでつつんで自分も興福寺の南大門の方へ見物にでかけました。
興福寺の南大門の芝生のあたりから、猿沢池のまわりには、何千という見物人が、竜のあがるのを、今か今かと待っています。午後になって、空は曇ってきて、黒い雲が空をおおい、今にも竜が上がるかもしれんというよう景色になってきました。そこは雨がふってきて雷もなってきました。
「さあ、もう竜があがるぞ」
「いよいよ、あがりそうだ」
と人々はさわいでいましたが、とうとう竜はあがらず、見物人もちりぢりになって帰ってしまいました。

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