「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

薬師寺から少し離れて
「昔むかしの笑いばなし」から今日は「拾い屋」です
あるところに貧乏長屋があったとさ。
その長屋に、あるとき茂作(もさく)という男が越してきたとさ。ところがこの男、妙な野郎で一体何をして暮らしているのやら、毎朝早くでかけては日の暮れに帰ってくるのじゃが、それが、商売道具ひとつ持って行でなし。
ふしぎでならない家主のおやじがあるとき問ううてみたところが、茂作曰く(いわく)
「おらの商売は、拾い屋だあ」
「拾い屋、はて、それはどういうことだ」
「なぁに、毎日町ん中歩いて回れば、何かひとつ拾うて帰れるもんだ、おらぁ、それで暮らしてるんだ」
おやじはどうにも合点がゆかない。ようし、それならひとつと、考えたおやじは次の朝早く、茂作のあとをそっとつけて行ったとさ。
そんなことはつゆ知らず、茂作は通り筋をまっすぐ歩いて行く。町の中ほどを過ぎても相変わらず、てくてく歩いていくばかり。こうしてやがて神社の境内を通り、隣りの町までやって来たが、何ひとつ拾う様子はない。
こんな調子であたりの町という町を全部歩き回るうちに夕方になった。茂作もあきらめたのか、やっと家様子、おかげでおやじもくたびれ果ててもどってきたが、ハタと気がつくと、どうやらふところの銭二百を落としてしもうたらしい。「あいつのせいで、ろくなことはね」と独り言を言っていると、そこへ茂作が帰ってきた。
腹は立てども文句を言うわけにはいかんわい、おやじはしらばっくれて言ってやったとさ。

本のさし絵から
「今日はええ日よりで人も多かったろうし、さぞええ物を拾ったろうのう」
「それがおやじどん、今日はいつになく不景気じゃった。けれども帰りがけにそこの路地で銭二百を拾うたきに、まあ、一日歩いたかいはありました」

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