「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「てんりのむかしばなし」から
「守目堂の由来」①


むかし、森面堂村に儀兵衛という中年の男が妻と住んでおりました。その夫婦には子どもがありませでした。わずかかばかりの自分の田畑地主地主から預かった少しばかりの田地を耕作して、豊かではありませんでしたが、生活には困ることもなく暮しておりました。
ある夏の日、夫婦が田んぼから帰ると、突然夫が「おい、おれは何も答えへん。おまえはどこだ」といい出すではありませんか。妻はおどろいて「何ですて、私が見えしまへんのか。よう見ておくんなはれ、ここにいますがな」と、夫の顔をのぞき込みましたが、夫は両手で目をこすり「何も見えへん。世の中がまっ闇じゃ」と、なげくばかりです。日頃の過労がたたったのでしょうか、夫婦はさっそく近くの医者にみてもらいました。当時のことですから、専門の医者があるわけでなさい、薬水をもらって目を洗い、薬湯を飲んで治療をつづけておりました。しかし、目はなかなかよくなりません。近所の人もいろいろと心配して、たずねてきてくれました。
「あのな、八つ目うなぎを食うと目がようなるちゅこちゃで」
「にわとりの肝を食べてみなはれ、目には一番よいといいまっせ」
と、いろいろと教えてくれますが、八つ目うなぎを食べても、にわとりの肝を食べても、目は悪くなるばかりで、一向によくはなりませんでした。
妻はどうしたものか、いろいろ思い迷いました。昔から高取にある壺坂の観音さまや、多武峰の音羽山の観音さまは、目の病気には大変霊験があらたかだと聞いているが、その観音さまにお詣りしたら、きっと夫の目の病気を治してもらえるのではないか。しかし、どうやってそんな遠くの山の中の観音さまへお詣りに行けるだろうか。目の悪い夫を一人残しての旅はとても出来ず、一緒に連れて行く事もかなわず、途方にくれるのでした。

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