「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「五條のむかし話」から
「竜のお寺」
金剛山の南のふもと北山村にずっと昔、大きな龍がすんでいたということや、身の丈は五ひろぐらい(約十メートル)で、胴体が長く二つするどい角をもち、一ひろもある頭をもちあげると、大きなきばはぐっとそりあがり、眼はまっ赤にランランと光り歯をがたがたさせながら相手をにらみつける。一度龍をみたものは、そのすさまじさにおそれおののいたそうや。
その大龍が時々夜中に田畑の中をのそりのそりいまわり、村を荒らしまわった。
あくる朝、村人たちは畑にやってきて、びっくりぎょうてん。
「西瓜がわれとる。」 「なすびが根からほりおこされる。」
「やっと、みのった稲が踏みにじられた。」
「おまえさんとこもか。」 「おれとこもや。」
「なんぎやなあー。」  
つぶれた胡瓜をひろい集めては溜め息をついていた。畑の入口に竹をたてて大龍が畑にはいらないようにする村人もいた。
でも大龍はおかまいなしに、かきをのりこえ畑を荒らしにきや。
柿の木にも、蜜柑の木にも、のぼって枝をポキンと折った。村人たちは集まっては「こまった。」「こまった。」となげいていた。
ちょうどそのころ、北山村にひとりの力の強い若者がすんでいた。
みんなはこの若者に龍を退治してもらおうと思った。
「このままでは、北山村がふみつぶされてしまう。」
「なんとか 助けて。」
「たのむ。」「たのむよ。」
若者は、じっとしておれず村を救おうと考えた。なんとかして龍を退治しようと祈りはじめた。一心にお経をとなえ出した。何時間も何時間も祈り続けた。
すると、一天にわかにかき曇ってあらわれ出た大龍は角をまっすぐにつったて、ひげをぴんとたて尾をパシリパシリうちたつぁきながら、大きなきばをガチガチならしまっかな舌をペロペロ出して、男に飛びつこうとした。男はすばやく身をかわして手に持っていた、珠数を振り上げてハッシと投げつけた。
龍は上になり下になってのたうちまわった。なおも若者に飛びかかろうとしたが、若者はおそれず、二度、三度と珠数を投げつけた。あえぐ龍は口から白い息をはき若者にはげしくおそいかかる。うちつけられた若者は額から、真赤な血を流しながらおそれず龍にたちむかった。力つきた龍は天へ逃げ上ろうとしたが身が三つに切れてパタリと地上におちた。
どうなることかと不安げにみていた村人は手をたたいてよろこんだ。でもさわぎがおさまると、
「龍のたたりがあるかもしれん。」
「龍の霊は、きっと残っている。」
「龍はしかえしにくるのとちがうやろか。」と心配になってきた。
そこで、龍のたたりをおそれてその霊をとむらうことにした。
龍の身が三つに切れて地上におちたのだから龍の頭の落ちたところに龍頭寺、胴の落ちたところに龍胴寺、尾の落ちたところに龍尾寺と三つの寺を建てて、龍を厚くとむらったという。今は北山町の東谷に龍尾寺のみが残って草谷寺と名付けられている。この草谷寺には三つの寺の仏像が国宝として安置されている。
草谷寺の後方の小高い山上に、石をまるくならべて塚をつくり、供養した龍塚が今も残っている。龍の頭と尾の塚は残っているが、胴は、はっきりとわからない。胴が段という地名があるのは多分龍の胴のうめたところだろう。

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