「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「地福寺の天つぼ」から
その二 ②
なにしろ、たいへん重い、大きな壺であります。また、割ってはならない、たいせつな壺であります。
一日も早く、この壺を阿波の国まで、運ばなくてはなりません。石ころの多い山道を、重い壺をかついで、歩くことは、なみたいていではありません。長い長い道のりを、つかれても、休まないで、早足で歩き、とうとう堺の港までたどりつきました。
阿波の国までは、あともうひといきです。一行は、ほっとしました。
「やれやれ、ここまで来れば、阿波についたも同じこと。あと、船にさえ乗れば、おのずと着いてくれましょう。」
「わたくしどもの役目も終わりました。ここから、ひき返すことにいたします。この壺のご利やくをいっこくも早くと、お祈りしております。」
ここで、壺を運んだ人、四人は、ひき返すことになりました。
海は、おだやかで、船はぶじに阿波の港につきました。
壺は、徳島の神護寺に運ばれました。
庭のまん中に、壇を作り、白布をしいて、その上に、壺をおさめました。
慶海法印は、
「では、七日間のお祈りをしてみましょう。」
と言って、二人の僧と共に、雨乞いのお祈りを始めました。
お祈りを始めて、五日めの七つ頃(今の午後四時頃)神護寺の境内は、急に暗くなりました。雨雲が、一面に寺をつつみこむようにおおいかぶさったかと思うと、たちまち、西南の方から、強い風が、うなるように、吹きはじめました。と、みるまに、大つぶの雨が、かわきっきた白い地面を、たたきつけるように降ってきました。
雨は、六日目の八つ頃(今の午後二時頃)まで降り、あちらこちらの川の水は、あふれ出すほどの大水になりました。
阿波の国の人々は、たいそう喜びました。そのうえ、天壺の神通力におどろき、天壺をうやまずには、いられなくなりました。
「不思議なことだ!あんなにひどかったひでりも、雨を見ることgはできた。」
「あの壺が、雨を降らしてくださったのだ。あの壺は、あいそうなえらい力をもっていなさる。」
天壺のうわさは、その日のうちに、人々の間に、ひじょうな勢いで広がっていきました。
阿波守は、たいへん、壺の威力に敬服され、まさかの時、この壺のご利やくを受けられるよう、せめて、壺のお姿を絵に描き写し阿波の国に、残しておきたいとおもわれました。
「わたしの国は、よく干ばつにみまわれ、困ることが、たびたびある。このようなりっぱな壺のお姿があると、たいへんありがたい。絵にかき写して、軸にしておこう。」
阿波守は、さっそく、その壺を絵に写し、その後、数本のかけ軸をつくって、阿波の国々へくばりました。

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