「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くのうのんから大和気象歳時記

「五條のむかし話」 
「地福寺の天つぼ」 ④
小角が、祈り始めて、三日め、あたりが、ほんおり明るく白みはじめたころ、滝つぼの中から、髪もまゆも、まっ白な老人が、大きな壺を両手にかかえて、現れました。
「わたしは、龍宮から来た使いの者である。あなたが、天子の命によって、雨乞いをしているというから、やって来たのだ。万民(ばんみん)を救うためにいっしんになっているあなたは、たいへん立派である。よって、この壺をあたなにさしあげることにしよう。この壺を、そばに置いて、祈りを続けるがよい。」そう言ったかと思うと、ふっと姿が見えなくなりました。
役の小角は、さっそく、言われた通りその壺を滝つぼの岩の上において、いっしんにお祈りをつづけました。
すると、不思議。
とつぜん、あたりが、にわかにかきくもり、ピカツ!と光ったかと思うと、耳もつんざくばかりの大きな音が、鳴りひびき、大つぶの雨が、降り始めました。
いっぽう、人々は、とつぜんの雷雨におどろくや、思わず喜びの声をあげました。
「雨だ!雨!雨が降ってきたぞ!」
「天の神様が、ついに雨をくださったぞ!」
長い間、じつに長い間、待っていた雨なのです。その喜びは、たとえようもありません。人々は、顔を天に向け、口をあけて、雨をほおばりました。
こうして、人々や、田畑はもちろん、野も山も、川も、すべての生き物が、よみがえりました。
雨は、七日間、降りつづきました。
田植えをぶじにすませることが、できたのは、いうまでもありません。
人々は、たいへん、ありがたく思い、そのお礼として、行者のため、お寺を建ててました。そして、「孔雀院」と名づけました。
これが、今の地福寺あたります。
その時の天壺が、今も、五條市久留野町にある地福寺に、大切にしまってあるそうです。しかし、役の小角が、天ガ滝で、お祈りの時、使った壺かどうかは、はっきりしません。

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