「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「五條のむかし話」から
「地福寺の天つぼ」 ③
このように、宮々、寺々のお祈りのかいもなく、ひとしずくのおいしるしさえないので、どうどうたまりかねて、天皇は、おもだった人たちを集めて、会議を開きました。
「もし、六月になっても、雨がふらなければ、たいへんなことになる。何か、よい考えは、ないものか。」
その時、藤原不比等という人が、
「申しあげます。わたしの父鎌足が、重い病で、床にふしておりました時、金剛の山で、修行している小角(しょうかく)という役(えん)の行者に、お祈りをしてもらったところ、治らぬ重い病が、ふしぎにも、治りました。今となっては、神通力のある小角さまに、お願いするように、方法は、ないものと思われます。
と、言いました。天皇は、さっそく、その意見をお聞き入れになりました。そして、
「それでは、一刻も早くお願いに行くがよい。」
と不比等に命じました。 天皇の命を受けた不比等は、仕度もそこそこに、金剛山へ向いました。険しい山道を登って、役の小角さまに、出会いました。
「よろしい。では、私が、万民を、救うために、すべての力を出して神にお祈りをいたそう。」
と、こころよくひきうけました。
さて、小角は、金剛山の天ヶ滝にこもりました。
何もたべず、何も飲まず、少しも休まず、岩の上に坐って、お祈りを続けました。この小角の声は、じつにおごそかで、滝つぼのひびきの音に美しくとけこんでいきました。

×

非ログインユーザーとして返信する