「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「てんりのむかしばなし」から
「こんにゃく橋の幽霊」

昔、稲妻に孫兵衛という麹売りが居りました。ある夜、帰り道にとある石橋を通りかかりました。その日は淋しい闇夜で、その石橋は誰一人通る人もなく、薄気味悪い場所でした。孫兵衛は気味悪く思いながら橋を渡ろうとすると、何か川の中から浮かんで来るものがあります。孫兵衛はギョッとして足がすくんでしまいました。浮かんで出てきたのは、こんにゃくを口にくわえて髪をふりみだした女の幽霊だったのです。
孫兵衛は腰をぬかして、そこへ倒れるようにヘナヘナとすわってしまいました。こわさに震えながらも一心に「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」と、念仏を唱え、目をつむり幽霊の成仏を祈り続けました。一心不乱に唱えて、もう一回百遍という九十九遍唱えた時でした。幽霊は孫兵衛の念仏の力に恐れをなしたのか、すうっと消えていったのでした。孫兵衛はホッとして急ぎ橋を渡り、稲葉に帰りつきました。
その後、こんなことがたびたびあって、村の人はこの橋をこんにゃく橋と呼び、夜おそく通る人もなくこわがられていました。
これは稲葉の村で、一つのこんにゃくのことで夫婦争いをして死んだ女の執念が、この橋の辺に迷い出てくるのではないかと、人々は噂をしていました。年月は流れた今では、もう幽霊も成仏したのか、姿を見せなくなりました。
今でも喜幡と稲葉との間には石橋がかかっていて、こんにゃく橋といわれ、幽霊の話が伝えられています。

×

非ログインユーザーとして返信する