「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

当店 「本のある喫茶店 うのん」に置いています本から 各地に伝わるお話を紹介しています。
「五條のむかし話」から
「曲り淵の話」
二見御霊神社(ふたみごりょうじんじゃ」)の下は、吉野川の断崖絶壁で、東から流れてきた水が急に南へ曲がるものですから、その絶壁に当たって、ものすごいうずを巻いていました。その水は気味悪いほど青黒く、底がどこまで深いかわかりません。そこをみんなは、「曲がり淵」と呼んでいました。
「あのな、曲がり淵には河太郎がおってな、そこへ近づいたらいっぺんに水に吸い込まれて、食べられてしまうので・・・・・。」
五條の子供どもらは、毎年夏が近づくと耳にたこができおるほど、おとなたちから聞かされました。河太郎がどんなものか、だれも見た人はありませんが、おとなも子どももみなそれを信じていました。
また、こんなこともありました。曲がり淵の水の波がしたが夜目にも白く荒れているある日、人が川原で櫛を探していると、曲がり淵の主が、いつのまにか櫛に化けて出てきて、その人を引っ張り込んだんだと・・・・。あたりには、白萩がいっぱい咲きこぼれていたそうな。
また、深い深い淵の中に、馬のひずめの型がついた大きな石がありました。むかし、ある武士が大勢の家来をつれて、この大和んぽ方へ征伐に来ました。どうどうと馬を走らせて、西の方からこの淵の真上に出た時、下を見る、それはもう目のくらむよな険しいがけと青い淵であったけれども、勇敢なこの大将はものともせず、馬もろとも淵の中に飛びおりました。それは、アッというまのでき事ですが、馬はぐいっとこの大きな石の上に止まったので、そのひずめの足跡がいつまでもいつまでも残っていましたと・・・。
吉野川の上流は、日本でも一番雨が多いといわれる「大台ヶ原」ですが、むかしからそこは、大きな大きな緋鯉が住んでいました。ところが、ある時その緋鯉が、はるばる川を下ってこの曲がり淵までやってきました。
それを知った人々が、争って取ろうとしましたが、たちまちにしてどこへ行ったのか、わからなくなりました。それからは、鯉はめったにその姿を見せません。けれども、もし、姿を見せるようなことがあったら、きっと数日中に、ひとりふたりの溺死者がこの淵にできたという。
曲がり淵の主は、河太郎なのか、大きな緋鯉なのか、だれもたしかめた人はないけれど、むかしから、五條の子どもたちは、夏の昼間、馬蹄形のついた石に裸で甲羅干しをした夜は、鯉のぼりのような大きな緋鯉に追いかけられる夢を見たということです。

×

非ログインユーザーとして返信する