「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「神野の民話」から
「神霊こもる神野の山」
おだやかな緑に包まれる神野の山は昔から全山が神霊のある不思議な山だといわれている。
とくに数百メートル流れるように連なるなべくら石には病いを治す不思議な力があるといわれる。


昔、ふもとに住む老女が重い病気にとりつかれた。どこの医者にかかってもなおらない不治の病いと言われた。絶望の老女はふと、「昔からなべくらの石の上に坐ればどんな病いでもなおる」という言い伝えを思い出し或る月のきれいな晩、家人に背負われて神野山に登り、まっくろななべくら石にむしろを敷き、その上に坐って、
「どうか神様お助け下さい。」
と最期の願いをこめて一心に祈った。

何刻だったろうか。
ふと気がつくとあれほど痛かった手足の節々が何んと軽々と動くではないか。頭の痛みもすっかり消えて、すっきりと元の体にもどったのである。
なんといううれしいことか、老女と家人は狂喜して山をかけくだり、
「病気がなおったぞ、なべくらさんのおかげや」
と村中に告げてまわり、人びとはこぞってお祝いをしたという。
なべくら石にこめられている「天と地」のエネルギーが邪気や病いのもとをたち切ったのであった。
それからと言うもの、村人たちはなべくら石を神の石としてあがめ、今日に至るまで、その石を他所に移すことをきつく止め合って大切にしているのである。
そしてまた、不思議なことに石をみがけば、みかんを切ったような紋章があらわれるのである。緑におおわれた神野山は、全山赤土でつつまれそこに鉄分がふくまれているのもめずらしいことで、神霊と天地のエネルギーがこもる不思議な山との言い伝えは単なるうわさ話ではなく、真実に近い何かがある気がしてならない。現に山一帯の土には砂鉄がまじり、また航空機に欠かせないチタンも数多く含まれているのである。
それにしても巾40メートル、長さ5百メートルの河の流れのような奇岩鍋倉石はどうしてできたものだろうか。ある晩には、太古の昔、大和の国、中津湖の波がひたひたと山腹まで波打っていた頃、宮殿や祭事の台地宇を造るため遠い海上を船で運んで来たものだろうと言い、またある説には、山一帯にうずくまっている石々が何回かの山の変動のために谷間に寄せあつまったものなだという。
いずれにしても学名角閃斑櫔岩(かくせんんはんれいがん)といわれるこの奇岩の集まりは神がしつらえ給うたとしか考えられない日本でも珍しい現象である。

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