「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん ら大和気象歳時記

「神野の民話」から
「里芋の穫れぬ畑」

弘法大師がところどころ遍歴の旅を続けながら切幡の地を通りかかられた時、ある百姓が里芋掘りをしていた。
大師は食物の持ち合わせもなく空腹を感じておられた時でもあり、その里芋があまりにもみずみずしく、おいしそうだったので、農夫に声をかけられた。
「お見事なお芋ができましたなあ、天の恵みはありがたいですね。まことにすみませんが、あなたに与えられたその恵みを私にも少々分けていただけませんか」とひと株の里芋をのぞまれた。ぼろをまとったうすぎたない旅人を見た農夫は
「苦労して作った大事な芋を縁もゆかりもないお前なんかにただのひとつもやれるものか」と強情につっぱねてしまったのである。旅の僧は、
「天の恵みのありがたさを人に分けほどこす身のしあわせをも知らないあわれな人よ」と口ずさみながら、とぼとぼとその場を立ち去り姿をけして行った。
それからどうしたことか、それ以後その畑ではだれが一生懸命で世話世話をしても里芋だけは、どうしても育たないそうである。天の恵みをひとりじめすることのむくいがいかなるものであるかを教える話である。

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