「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「てんりのむかしばなし」から
「弁天地蔵」

天理市の市街地から東へ山を越えていく奥深くに山田という静かな山村があります。そこの永楽寺といお寺から田んぼづたいの小道を200メートルばかり登っていくと、清らかなせせらぎと小鳥の鳴き声がこだまする静かな山は、とてもすがすがしく思われ、そこの暗い谷間にそった小道にまつわれている地蔵さんにまつわるお話です。
その昔、子供がこの地蔵の前で小さな鏡を拾いました。鏡は土で汚れていて子供の顔は映りませんでした。すると、とても美しくきれいに映りました。「わたしの顔はこんなに美しいのやろか」と子供はうれしくなって地蔵さんに聞いてみました。地蔵さんは「今、あなたは鏡を洗ったでしょう。だから美しく映ったのですよ」と、申されました。子供は喜んで地蔵さんおのお顔を映したり、自分の顔を映したり、目を上げたり、下げたりして遊んでいました。間もなく子供のお母さんが心配して呼びにきました。
お母さんは子供が地蔵さんに悪いことをしてはいけないと思ったのでしょう、「こんなところで遊んだりしたらあかんで、お地蔵さんがおこらはるで、はようその鏡をここへ返しとき」と、連れて帰りました。
二、三日して子供は、あの美しい鏡のことを思い出し欲しくて欲しくてたまらなくなりました。とうとう熱をだして病気になってしまいました。お母さんが心配してきっと地蔵さんのところでいたづらをしたばちがあたったのではないかと、お地蔵さまにおわびのおまいりをしました。

すると、その夜お母さんの枕元にきれいな美しい弁天さんが現れて「わたしは、子供が大好きなのです。わたしの大切な鏡を与えたら子供と仲よく出来ると思っていたのです。あなたは連れて帰ってしまいましたね。わたしはとても寂しいのです。」と、おちげになりました。お母さんはびっくりしました。そして子供を連れてお地蔵様のところへ行きました。鏡はもうありませんでした。でも子供はすっかり元気になって地蔵様と遊びました。
それから村の人はこの地蔵さんを弁天地蔵さんと呼び、一そう親しく思うようになりました。
前の小川で手を洗うと手がきれいになり、顔を洗うと顔がきれいになると誰言うとなく言うようになりました。弁天地蔵様はこうして村人と仲よくしながら見守ってくれているのです。
今もなお清水垣内では弁天講があり、おまつりをしてお供えを絶やしません。

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