「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記 十津川郷の昔話

底なし田
猿飼の高森には、底なし田がありました。



あれは、あたしがまだ小さかったころ、高森の親戚の家へ遊びに行ったときのことでした。
きょうは、在所のおばあさんたちが寄って、宮田(神社の水田)の田植えをする日だったというのです。
ところが、この宮田は名にしおう底なし田じゃったらしく、いったんはまりこんだら、たいへんなことになると、おばあさんたちはたいそうおびえていました。はまりこまないようにと、在所の衆は、この田んぼに大きな松の丸太をたてよこにして沈めてありました。
わたしにも田植えをさせてとせがんだら、おばさんたちは、
「泥の中の丸太を踏み外したらあかんぜ。」
といいながら苗を取ってくれました。わたしは、いわれるままに、おそるおそる丸太を足でさぐりながら、苗を植えたのを今もおぼえています。
やっと、田植えがすんで、おばさんたちと一服しているとき、おばさんの一人が湯呑のお茶をすすりながら、こんな話をしてくれました。
「ずっと昔、在所のある人が、うっかりして、この田んぼに臼をまくりこんだんじゃ。すると、臼は、ずるずるずるとみるまに泥の底へ沈んでしもうた。さあ、たいへんと、在所の衆みんなで、いっしょうけんめい田んぼの中をさがしたものじゃ。けんど、いくらさがしても、とうとう臼はみつからんかった。しかたなく、あきらめかけていたら、何日かたったある日、高森の下を流れる大川(十津川)のいちざこ渕に臼が浮いとるというので、行って見たら、その臼は、宮田にころがりこんだ臼に間違いなかった。」と。
この高森の底なし田は、桑田のいちざこの渕へ出てくるというのでした。
わたしは、子ども心に気色悪いことと思い込んでいたものです。

■住所 630-8053奈良県奈良市七条1丁目11-14
■℡  0742-43-8152

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