「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「神野の民話」から
「王塚伝説」
その昔、神代の時代に ひ速日(ひのはやり)の命という女神が伊勢にお住まいになっておられた。
世の女神衆の中でもとびぬけた美しい女神であったので、世の男の神々の一番の注目になり、われもわれもと「ひのはやみこと」に恋こがれ慕いいつきまとった。
あまり多くの男の神に慕われたみことは、とてもみんなの好意にこたえられないと思い、ひとりこそっりと我が身をかくそうと、伊勢から熊野を通って吉野の山中に住まいを定められたのである。
みことを慕う世の神々は、どこまでもあとを追い、みことをさがしてつきまとった。
思いあまったみことは、さらに北上し、神野山は神野寺のふもとの弁天池のほとりにひっそりとすまわれたのであった。
みことはこれで安心と思われたが、世の神々の思いはおさまらず、みことを追い求めて神野山めがけてかけつけた。
みことはたまりかねて、男の神々の目を逃れようと一尾のオロチに我が身を化かされたのであった。
みことを恋したって山また山を越えてあつまった男の神々の目の前に横たわる一尾のオロチ。
このオロチがあの美しい「ひのはやひのみこ」とはさすがに神々も思いもよらず、行く手を邪魔するにくきオロチと思い込み一刀の剣をもってしとめてしまった。

オロチは見る見るうちに女神の傷ついた姿にかわり、弁天池の澄んだ水の中に悲しいその身を横たえたのであった。
集まってきた世の男の神々は、そのいたましい姿を見て涙の枯れるまで泣き明かした。そして、我が恋が実らず、その思いが、女神を悲惨な姿にしてしまったこの事実を悔い、なげき悲しみつつ神野山頂にみことの墓を設け祀ったのである。
山頂の王塚にはこんな悲しい話が秘められているのである。
それがもとでか、弁天池の水は春秋二回赤く染まるといわれている。
そしてまた五月に全山を覆うまっ赤なベニツツジは「ひのはやひのみことの清らかな血の色」であるともいわれている。

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