「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの「うのん」から大和気象歳時記 十津川村の昔話

猫又の主

折立から玉置へ登る途中にそれは美しい猫又の滝があるがのう。そこにまつわる話じゃが。
ある日のこと、中前のおばさんが筏をかく(組む)藤かずらを猫又の滝近くまで切りに行ったそうな。いいかずらが、何本も何本もみえるので心はずませて滝の脇をよじ登ったそうな。足元は岩だらけで登るのに一苦労したそうな。時々石も落ち渕の中にも飛びこんだそうな。
おばさんは、かずらを切るのに夢中だった。
「やれやれよかった。こんないいかずら、どっさりあってほんまによかった。」
と、ひとり言をいいながら、だ円形のかずら輪を作り、二ヵ所しばって背負いやすくした。おおかた十五貫(約50キロ)余りあったそうな。おいそ(背負いひも)で背負って、もと来た道を滑り下りて夕方、家へ帰ったそうな。
おばさんは、夕飯の仕度をすませ、家族の帰りを待った。夕飯を皆でとっていたとき、おばさんは急に体をぶるぶる震わせて立ち上がる動作をし始めた。みんなはびっくり、どうしうたんだろうと思い、熱をはかると少し高い。中前のおじさんは、
「そりゃあ、きょうかずら切りに行って、汗かあて風邪でも引いたんじゃろう。風邪薬飲んで早ようねえよ。」
と、言って早く寝させた。その夜は昼のつかれもあってか、よくねむったそうな。
あくる日の朝、どうだろうかとおじさんが、そおっとねている様子を見ると、今度は両足を立てて、お尻を横にぶるぶると振っている。おじさんはおかしいと思うた。となり近所の人らも、
「これは、風邪じゃあなあぜ。こがあな、みょうなことするの、見たことなあわ。」
「一ぺん神様に見てもろうたらどうなあ。きっと何かあるのとちがうか。」
といわれ、みてもらうことにした。
すると、神様がいうには、
「あんたとのこの嫁さんはな、猫又の滝へかずらを切りに行ったらしいが、その時、渕の脇で猫又の主(大蛇)が日向ぼっこをしていたんじゃ。そこへ嫁さんが石をまくり落としたらしい。それが尻尾にあたりきずをつけてしもうたんじゃ。その動作が、嫁さんにうらみとして出ているのじゃ。早よう猫又の滝へ酒と米・塩を持ってあやまりに行って来い。そうせんなあ命とられるぞ。わしも謝っておいてやるから。」
と教えてくれたそうな。
おじさんは、さっそく家に帰り、おばさんにこの話をすると、
「たしかに石は落ちて行った。まさか主がいるとは知らなんだ。わるいことをした。早よう、おとさんよ、わしの代りにあやまって来てくれよ。わしは、足も腰も立たんよってのう。」
「よしよし、しっかりあやまってきたるわよ。心配するなよ。」
と言って、米・塩と酒を持ってあやまりに行ったそうな。
おじさんが猫又から帰ってみると、おばさんは起きて座っていた。
「おうい、きずかないか。足も腰も痛いことなあか。」
「ついさっきから痛みがとまってきたわよ」
「やっぱり主のばちがあたったんじゃのう。」
ほんまによかったよかった、みんなで大喜びしたそうな。

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■ ℡  0742-43-8152

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