「うのん」の気象歳時記ブログ

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薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「五條のむかし話」から
「姫谷池」
五條市良峯の奥地に一つの池があります。
むかし、その池の近くの村の百姓は、その池のおかげで米をつくりくらしておりました。
村には、ひょうばんの高いかわいい、働きものの娘がおりました。
ある日のことです。その娘が、池ヘ洗たくに行きました。すると、池のつつみに、かんざしが落ちていました。
娘は、今までに、こんなりっぱな美しいかんざしを見たことはありませんでした。思わず、拾ってかみにさしました。すると、どうでしょう。かみにさすや、たちまち、かんざしは、大蛇に化けて、大きな口でみるみるうちに娘をのみこんでしまいました。
けれども、娘の「魂」だけは、のみこむことができませんでした。娘の「魂」は、草むらの中で青い火になってもえつづけていました。
夕方になっても、娘が帰ってこないので、両親は心配になりました。いくら洗たく好きな娘でも、あまりにもおそすぎます。村の衆みんなで、さがしに行きました。すると、池のそばの草むらの中に青い火が見えたのでかけよりました。そこには、げたや、洗たくものがころがっているだけで、娘の姿は、どこにも見えませんでした。
「これは、娘のげただ。洗たくものだ。」
「おうい。おうい。どこにいるのだ。」
口々に、娘を呼びましたが、どこからも、返事はかえってきませんでした。
「これは、きっと、池の主にのまれたのにちがいない。」
両親は、たいそう悲しみました。
さっそく、そこに、石碑を建てて娘の霊をとむらいました。


それから、誰がいい出したのか、この池を「姫谷池」と呼ぶようになりました。

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