「うのん」の気象歳時記ブログ

薬師寺近くの小さな本のある喫茶店

薬師寺近くの うのん から大和気象歳時記

「川上村の昔話」
「にせの弓名人」
むかしねえ、なまくら者がおってね、ずぼらな、仕事のせん、うそをついたり、賭け事したりする。ずぼら息子がおってね。その息子が金がないようになって、お爺さんにお金を借ってね、ほいで、
「今度こそ成功するさかい、商売するんで成功するさかい、仕込んでくれ」ちゅことですわ。ほうらくを一荷に仕込んでね、上の在所へ売りに行たらしいですわ。その在所へは、わりあい人の行かんとこやで、ほうらくみたいなもん持ってったらよう売れるいうて。
ほいで、登って行きよるうちにね。その山ん中でね、ブシャブシャワイワイ、ブシャブシャワイワイ話するらしいですわ、山ん中で。何だいなと思って、えらいし、杖ついてその話声のする方、こうしてのぞいとったらしいですわ。ほしたら、ちょっと下で大勢よってね、ばくちしてますねてね、野ばくちってね、野原で。ほいで、それに力入れすぎてね。あんまり。荷物持ったらね、杖ついて一服するんですわ。それしとったら、杖のここがはずれてね、そこへ荷物ガサッと落としたらしいですわ。ほしたら、ほうらくがみんな割れて、グシャグシャに割れて、えらい音したんで、さあ、その下でばくちしとったやつらがね、あわてて逃げてしもたらしいですわ。そやから、えらいことしたと思たんやけど、そのばくちしとったところへ行たらね、ほいて見たら、金をどっさりほったってね、ほいてそれを拾ろうてね、「こりゃえらいほうらくは割ったったけど、金ぎょうさんもうけた」と思って、ほいで、それ持って何この在所へ行ってね、在所で泊まるとこないし、無住の寺へ行たらしいですわ。ほしたら寺はきれいな寺でね。無住の寺やさかいおかしいな思て、
「こら,こんなところでおったら、また誰や来るやろうから、天井へ上れ」言うて、天井へ上ってね。ほしたら、天井は、昔はね、煙抜きって天井へ穴あいとったんですわ。その天井へ上ってたらね、夜になったら、またブシャブシャブシャブシャと話するんやってね、下で。また、何どいなて行て、こう、じいっとその窓行て、のぞいたらね、ばくちしとんねてね、下でランプつけて。それでまた、あんまり力入れすぎてね、
「ああ、あこへはらなあかんのに、あんなとこはったらあかん、あこへはったらあかん」
と思って、ばくち好きやで、とうとう手はずれてまくれってね、下へガシャーンと。ランプは消えるは、えらい音したんで、みんな逃げてしもて。ほいで、そこでまた金拾うてね、みんなが金持つ間なしに逃げてしもうたんで。
ほいで、それ持って、明くる日、向こ行きよってね。
「まあ、金ぎょうさんもうけたんで、こら何とかして」言うて和歌山行たらしいですわ。
ほいで、行きよったら、紀州さんのね、お通りね、その、
「下に、下に」て来とるのを、先、道切りしたらしいですわ、そいつがね。ほいたらついかまえられて、ほいて、
「なには道切りした奴っで、無礼仇ちにせい」ちゅうて言うてんけど、お殿さんが、
「商売何ぞ」て言うたらね、
「商売は弓うちや」ちゅうてね、
「弓うちやったら、こいつ連れていんで、あの化け物のおる島のね、あこへ化け物退治にやろうな」ちゅうてね、ほいて、連れていなれたらしいですわ、連れて。
ほして、いんでさあ、明日は、吉野川のね、川流で島になってねえ、ほいて、そこに寺が、あったらしいですわ、一軒。ほいたら、その寺い化け物退治に行くつうことになってね。
ほで、そこの化け物退治たら家老の婿になるっつうてね。婿にするっちゅうてね。それまでいろいろ大勢の人が、えらい人が行てんけど、みなその化け物に噛み殺されてしまうねんて、その島へ行たら。ほいたら、そのお嬢さんが弓うちを見てね、
「あんな男が、もしやのことがあって、化け物退治てきたら、えらいこっちゃ。もう毒入れなあかん」言うて、弁当に毒入れたらしいですわい。ほいたら、そいつを持って行てんけどね、みんないんだあと、
「さあ二階へ上れ」思て、二階へ上って、天井へ上ってしとったらね、その弁当忘れてんね。そやけど、もう暗くなってきたし、弁当取りによう行かんと、そこへすくんどってんね。ほいたら、夜、えらい大きな物が出てきてね、何や知らんが。ほいたら、その弁当食いかけてんてね、歩いとって。そいたら、夜、その化け物がその毒の弁当食たもんやで、毒で死んでね。朝起きてったら死んどるんやてね、その化け物が。それから、もろてきとった弓の矢をね、もう急所へばっかり押し込んでね。そのう、出て死んどるやつに押しこめて。どこへでも押し込めるわね。目から耳から、のどのここから、けつの方からも、急所つうころへ十本ほど、くれてもろっとた矢をみんな押し込んだらしいですわ。ほいで、えらいもんや、化け物退治したていう顔して座っとたら、みな、朝、見いに来てね、
「えらいもんや。弓の名人か」言うて、
「弓は急所へみなうってしもうたる」ちゅうてね。
ほいたら、とうとう化け物退治てね、ほいて、そこの婿になったってね。しまいに。ほて、人間の運つうものはわからんもんやで、どういうところに運があるやらわからん、そこの婿になって。そしたら、そこのお嬢さんもね、初めはあんな男と思っとったけど、弓の名人やつうの聞いて、また好きになってね、仲よう一生暮らしたて。ほしたら、みな、
「若いもんに弓の稽古したってくれ」言うてね、
「弓はまさかつうときにやないとね、弓の矢うったりなんかするもんちがう。バタバタうっとたら、肝心なときにあかんさかい」ちゅうて。とうとう、その人に運がついたんで、えらいもんや、家老の養子になったつう話、聞いたことあるわい。

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